今回は、宗教的な塔について書いてみよう。これは仏教にだけある独特のもので、キリスト教やイスラム教では、塔にまつわる事柄はほとんどない。それは、仏教においてはお釈迦様の骨を大切なものと認識しているからだ。いわゆる仏舎利を祀る習慣は仏教では非常に強い。ストゥーパといわれる仏の骨を納めた塔が、インドのアショーカ王の時代に数多くつくられ世界遺産として名高い。インドネシアのボロブドゥールの遺跡は、このストゥーパの集合体だ。
仏教が日本に伝わると、この塔は皆に馴染みのある木造の三重の塔、五重の塔となった。やはり日本は木の国である。
さて、建築物である塔をつくるという考えの延長に、これを小さく、数多くつくって祈願をこめようという考えも起こってくる。それが今回紹介する木製の小さな塔なのだ。
まずは写真1を見て欲しい(写真はすべて拡大してご覧ください)。
一番大きな右の木造の塔は、高さ約20cm、法隆寺の百万塔と呼ばれている。法隆寺で今から1200年前に百万個つくられたからだ。
奈良時代に太政大臣藤原仲麻呂が乱を起こしたのだが(乱は一週間で収まった)、その後こういう乱が起こらないように、称徳天皇が百万個の木の塔をつくることを決めたのだ。
さて、この百万塔の形を見ると、ろくろ(回転体を、削ってつくり出す機械)の仕事だとわかる。写真1右の三重の塔の上にある小さい部分は相輪と呼ばれ(写真2)、三重の塔の上部の穴にはめ込まれている(写真3)。そしてその中に、世界で一番古い印刷物と言われる経文が入っている。この写真の穴の奥に写っている紙は残念ながら経文ではなくただの紙だった。写真で見ると、虫喰いの跡も見られるが、1200年も経っているとは思えないだろう。
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