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第86号 法隆寺の百万塔 其の一
今回は、宗教的な塔について書いてみよう。これは仏教にだけある独特のもので、キリスト教やイスラム教では、塔にまつわる事柄はほとんどない。それは、仏教においてはお釈迦様の骨を大切なものと認識しているからだ。いわゆる仏舎利を祀る習慣は仏教では非常に強い。ストゥーパといわれる仏の骨を納めた塔が、インドのアショーカ王の時代に数多くつくられ世界遺産として名高い。インドネシアのボロブドゥールの遺跡は、このストゥーパの集合体だ。

仏教が日本に伝わると、この塔は皆に馴染みのある木造の三重の塔、五重の塔となった。やはり日本は木の国である。

さて、建築物である塔をつくるという考えの延長に、これを小さく、数多くつくって祈願をこめようという考えも起こってくる。それが今回紹介する木製の小さな塔なのだ。

まずは写真1を見て欲しい(写真はすべて拡大してご覧ください)。
一番大きな右の木造の塔は、高さ約20cm、法隆寺の百万塔と呼ばれている。法隆寺で今から1200年前に百万個つくられたからだ。

奈良時代に太政大臣藤原仲麻呂が乱を起こしたのだが(乱は一週間で収まった)、その後こういう乱が起こらないように、称徳天皇が百万個の木の塔をつくることを決めたのだ。

さて、この百万塔の形を見ると、ろくろ(回転体を、削ってつくり出す機械)の仕事だとわかる。写真1右の三重の塔の上にある小さい部分は相輪と呼ばれ(写真2)、三重の塔の上部の穴にはめ込まれている(写真3)。そしてその中に、世界で一番古い印刷物と言われる経文が入っている。この写真の穴の奥に写っている紙は残念ながら経文ではなくただの紙だった。写真で見ると、虫喰いの跡も見られるが、1200年も経っているとは思えないだろう。
写真1
<写真1>


写真2
<写真2>


写真3
<写真3>

<写真4>


写真5
<写真5>

約百万個もつくったのに、現在は法隆寺に4万個ほど残っているだけで、あとは散逸してしまった。それが骨董店に出回っているのだ。値段は、百万円を越えるものから(破損がなく、経文も入っているもの)数万円のものもある。

こういった思想(願いを込めて数多くの塔をつくって祈願する)は、他の寺でも実行され、有名なのは写真4の奈良の室生寺のもみ塔(豊作を祈り、中にもみが入っている。高さ6cm)や奈良の田原本町宮古(たわらもとちょうみやこ)の泥でつくった泥塔(でいとう。高さ7cm)がある(写真5)。平安末期に土地の貴族が信仰のためにつくらせたと言われている。とてもかわいい、存在感のあるものだが、東の骨董店では見かけることが少なく、関西、特に奈良、京都で見つけると、なぜかうれしくなる


11/4/30

(写真をクリックして拡大してみてください。)

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