今回は第34号で紹介した日本人アーティスト・伊藤一廣の最後の遺作を紹介したいと思う。
伊藤氏はアースジュエリーやシージュエリー・ファイアージュエリー等のコンセプトジュエリーやジャンクジュエリーの発案者でも知られ、本校の講師としても活躍してくださっていた。
亡くなる直前、彼は教え子たちと新橋の「ギャラリーいそがや」でグループ展を開催した。そのグループ展の会場はとても変わったもので、ギャラリーの床だけでなく壁や天井のすべてをダンボールで覆っていた。
そんな展示会場の中に高さ約1.5mもある『二つの指輪』という作品を出品した(写真1)。作品の中央には洋子夫人と彼のマリッジリングが2本置いてあり(写真2)、作品の上部には十字架もついている。そしてこの作品は会場にあわせすべて「ダンボール(写真3)」で出来ており、彼の力量の高さを示している。
まるで彼は自分の死期を悟り、自らの手で墓を作ったのに違いない。そしてこの作品が彼の遺作となり1997年2月、48歳の生涯に幕を閉じたのである。
彼は亡くなる直前、明治維新の志士たちについてこんなことを言っていた。「ああいう風にしか生きることが出来なかったのですよ」と。高い志を持ち武士道を貫き散って行った志士のように、最後までジュエリーを介して生涯を閉じようとした彼の生き様を表わしている遺作となった。
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06/10/18
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