この作品(写真1、写真2、写真3、写真4画像をクリックすると拡大します)、写真のようなそうでないような不思議な感じですね(絵が階段天井近くにかかっているので、このような写真となっています)。実は、作家がいつも通い慣れている新宿駅南口から甲州街道にカメラを向け、駅を背にして左から右まで、約180度近く撮影した写真がベースになっています。中には駅構内蛍光灯の明かりも写っていますね(写真4右から2番目)。
彼女は、この写真をまず5つのパネルに分けました。そして各々のパネルの写真を、モザイクのように曲線で切り抜き、その切り抜いた後の部分に、布で作った花(例えばバラ)や色パネルを埋め込んだのです。ある程度の立体感を感じるのはそのためですね。
ところで、なぜこんな面倒なことをするのでしょうか。写真だけでいいのではと思ってしまいますね。しかし、もし写真だけだったら、そこに特別な思いを持っていない限り、つまらない風景ですね。自分の作品を「一個人の想い」から「見る人の共感を呼ぶもの」にするには、もう一つ工夫がいるのです。
絵画や写真は、先人達がありとあらゆる事をやってきたので、新たにこの分野の仕事をする人は、新しい境地をどう開いたらよいかとても悩んでいます。その一つの表れが、ジュリアン・シュナーベル(注1)の作品でしょう。
割れた皿をキャンバスにつきたて、その上から絵を描いています。(写真5)私も「そんなことやってどうなるの?」と考えていましたが、初めて彼の作品の前に立った時、平面的な絵にはない衝撃に圧倒されました。
私がこの作品を評価するのは、作者の個人的な新宿への感傷になりがちな写真(殆どの写真は個人的思い出のためですね)を、このように布で加工し、そこに別世界を生み出し、一つの作品につくりあげているところなのです。色の感覚も南新宿にあっていませんか。とても若い、造形大学出身の作家で、岩野仁美さんという方です。褒めてあげたくてここに取り上げました。本校第4校舎の、階段踊り場にかざってあります。ヒコへお越しの際は、ぜひご覧いただきたい。
(注1)ジュリアン・シュナーベル・・・ 皿、陶器の破片をキャンバスに貼りつけ、暴力、死などを表現。ニュー・ペインティング、もしくはネオ・エクスプレッショニズムと称される80年代の新しい絵画の流れの重要人物。ジャン=ミシェル・バスキアを描いた『バスキア』で脚本・監督を務め、映画界にも旋風を起こす。
写真1:第4校舎の踊り場にある作品
写真2:作品左側
写真3:作品中央。布をはめ込んだバラが見える
写真4:作品右側
写真5:ジュリアン・シュナーベルの作品。白い部分が割れた皿の破片
(写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます)
05/10/13
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