まずは、このトンボのブローチ(写真1クリックすると拡大します)を見てください。
実際の長さは3.7cm、トンボの特徴を残しながら、じつにうまくデフォルメされていると感じませんか?ぼんやり見れば本当のトンボのようですが、羽が異常に大きく、胴体は小さいですね。しかも、水平方向にうすくデザインをまとめています。
じつはこれ、日本刀の手で握るところ――柄(つか)と言いますが、そこに付いていたものなのです。どんなふうに付いているか、それが写真2です。ご覧のように、柄の部分にはひもが巻かれていて、手がすべらないようにしてあります。
ひもの下の、たいていは柄の中心に近いところに付いているこの物体を、目貫(めぬき)と言います(写真3)。腰に差せば非常に目立つ場所で、刀装(刀を装飾する、という意味)の中でももっとも大切な部分です。ここから、目貫通りという言葉が生まれました。自分の家紋を目貫にすることが多いようですが、それ以外にもありとあらゆるデザインがあります。
例えば、写真4-1〜4-4をご覧ください。写真4-1はスミかごらしき目貫です。茶会に使う炭、灰を払う羽ぼうき、火ばしなどが表現されています。写真4-2の後ろ向きのすもうとりはユーモラスですね。写真4-3はうさぎです。うさぎは古くからあるテーマなのですね。写真4-4はう飼いのうの風景ですね。
ところで、写真1の目貫ですが、デザインになぜトンボが選ばれたのでしょう。
このトンボはおそらく「オニヤンマ」だと思います。トンボの中でもっとも大きなオニヤンマは、道の中央をまっすぐに飛んでいくのが特徴です――そのため子供の頃には捕まえるのが簡単でした。何となく、武士の潔い生き方と愚直さをあらわしているような気がしませんか? きっとそれが、武士に気に入られたのだと思います。
「我々もこんなふうに目移りしない人生を歩みたい、ひとりの主君に忠義でありたい」きっとそんなふうに感じて、オニヤンマをデザインに選んだのだと思います。
(写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます)
05/06/01
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