この作品は、2004年11月に行われた3校合同展に参加した、ミュンヘンチームのナンナ(Nanna)の作品です。
写真1(クリックで拡大します。以下同じ)を見てください。これ実は心臓の一部です。もちろん人間のものではなく豚の心臓です。豚の心臓は、大きさが人間のものと非常に近いことから、心臓疾患の患者に豚の心臓の一部が移植されることもあります。(握りこぶしくらいが人間の心臓の大きさです。)
ナンナがこの作品を完成させるまでには、多くの苦労があったそうです。まず、豚の屠殺場へ行き、取り出したての心臓をもらってきます。20分以内にプラスチックの充填処理をしないと形が変わってしまうので、ナンナはまだ温かい心臓をつかんだままアトリエにとんで帰って処理をしたということでした。それでも8個の心臓のうち、3個しか作品にならなかったそうです。
「心臓」という、生物にとってもっとも重要な器官を直接手でつかんだ実感というものは凄かったでしょう。そのフレッシュなハート(心臓)が写真2です。ハートという言語は普通、「心臓」という器官・身体的な意味よりも、メンタルで情緒的な意味合いで使われます。このように色々な面で生物の中心的な役割を果たすものを作品として扱うには、それなりの勇気と覚悟が必要だったことでしょう。ナンナはこの作品を3年かけて作っていますが、その間、他の作品はたった1個(それは自分の爪を集めたネックレスですが)しか作らなかったそうです。
私も心臓模型を買ってみました。その模型が写真3です。矢印のところが、このジュエリーの部分です。大動脈というパイプがいきなり心臓とつながっているのではなく、3つの弁(半月弁)を介していることがわかります。
3年間ほかの作品を作らなかったという彼女のこの作品への執念と献身や、生物の生命の根源である心臓を温かいうちから触るという行為の持つ重さから、まさにこの作品を作る事は宗教的修行に近いと私は感じました。ジュエリーを作る事が、イコール自己の修行になるという例を見せられた気がします。
鑑賞者の立場で色々な作品を見たとき、それがその人そのものを表し出す作品か、あるいは頭や手先や個人的感傷から作っている作品かは、すぐ感じ取れるものです。しかし、この生々しい作品に出会って改めてそういった作品の重みや深み、自己との関連性について考えさせられました。
写真4は心臓すぐ近くの大動脈のリングです。この指の入る部分が大動脈で、そこから分岐しているのも血管です。本物そのままの形です。こんなに太い血管が私たちの体の中を走り、1分間に60回も鼓動しているなんて、生命の神秘そのものですね。
(写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます)
05/01/18 |