写真1(クリックで拡大、以下同じ)を見てほしい。こういうものをチャーム・ブレスレットというが、名前のとおり実にチャーミングだ。モチーフはとても日常的なものばかり。それを編み物でつくってある。オランダのジュエリー作家、フェリカ・ファン・デル・リーストの作品だ。
私は最初これを見たとき、「ウ〜ン、器用な女の人の手芸かな?」と思った。というのは、これまで私が見てきた、いわゆる「ジュエリー作品」は、主に金属できっちり作られていて、技術レベルも高く、コンセプトを持った、一見して手慰み品ではないとハッキリわかるものだったからである。しかし、フェリカの作品(写真2、写真3、写真4)を次々と見せられ、話を聞くうちに、それは私の偏見だということがわかってきた。
写真2は、ゴキブリのおもちゃでできたブローチだ。約5cmもあるものを買ってきて、それにパンツ、シャツ、レッグウォーマー、さらに帽子(ゴキブリの目を隠しているところがユニーク)を編み物で着せている。これは、編み物をやっている人に聞くと、簡単にはできない繊細な作業らしい。それにしても、実に愉快で身に着けると人目をひくブローチである。
写真3は、ウサギのおもちゃがニンジンの台車を引っ張っているデザインのブレスレットだ。ニンジンを縛っているX字型は18金で作られ、ウサギが握っている車輪も金の仕事である。
写真4は、アムステルダム、ニューヨーク、東京の3箇所で、世界で3点しか作らないと言った鹿のブローチだ。この配色が素晴らしい。タイトルを見るとFlamenco Deer Senor Senorita del Sol(フラメンコ・ディア・セニョリータ・セニョール・デル・ソル)となっている。いうまでもなく、「セニョリータ」はスペイン語で娘、「セニョール」は男性だ。両性の名前をつけているのは、この鹿がゲイだからだ。よく見ればサングラスをかけ、雰囲気はまさに可愛いゲイの鹿である。
私が彼女のジュエリーに対する考えを変えるに至った理由を振り返ってみると、次のことがあげられる。「ただの手芸」の域を超えていない手仕事の場合、造形力がとても甘いことが多いが、この編み物ジュエリーには、造形力、デザイン力、仕事の丁寧さや、ユニークさ、ネーミングのシニカルさなど、いくつもの要素がきちんと含まれている。もちろんコンセプトもしっかりしているし、これだけの背景があれば、十分に「ジュエリー作品」といえよう。
最後にフェリカ本人を紹介しよう(写真5)。私の頭を柔らかくしてくれた、うれしい作品の作者である。
(写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます)
04/12/14 |