今回は、「根付」の中でも、なかかなお目にかかれない逸品をご紹介します。
皆さんは「根付(ねつけ)」という名前、聞いたことありますか? 江戸時代、財布や印ろうは、着物の帯に紐で吊るしていましたが、それを落とさないように、もう一方の紐の端につけていた留め具を根付といいます。参考までに、私が書いた『ジュエリーバイブル』(美術出版社)の119ページをご紹介しておきます。写真1(クリックで拡大。以下同じ)
一般的な大きさは、上下で3〜4センチ、素材は主に象牙でした。男性や商人にとっては人目につくものでもあり、一番のジュエリーだったのです。題材も「昔の物語」、「日常生活」、「人物」、「動植物」など本当に多彩です。英国には「根付協会」なるものまであり、国際的にもコレクションの対象となっています。
さて、実物の写真を見てみましょう(写真2)。この作品は、高さ約6センチの象牙製の根付です。題材は、卵の殻の中にいる姫に上からカラス天狗、下から鬼が近寄っていくシーンです。手前には、絵が描かれた扇子が広がり、卵の割れたカケラが散らかっています。
まず、姫の表情を見てみましょう(写真3)。今でいう"おかめ顔"ですが、怖がっている表情がよく表現されています。姫の奥の空間は、すべてくり貫かれていて、反対側には小窓が開いています。卵の殻のようにうすく彫ってありますね。
今度はカラス天狗を見てみましょう(写真4)。卵の穴から中を覗こうとしているのですが、鼻がじゃまになるので手で曲げています。左手には紐を持ち、竹の子(?)をさげています。姫をつり出そうとしているのでしょうか。
下の鬼は、ふんどし1つで入口からそおっと近づこうとしています(写真5)。足元には採集したきのこのカゴがあり、鬼は今にも動き出しそうです(写真6)。
最後に底面を見てみましょう(写真7)。根付の紐を通す穴が2つあり、扇子の裏、きのこカゴの底、鬼の足が見えますね。なんとも手が凝ったユーモラスな一品です。
(写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます)
04/9/17 |