いつもの事ながら、まずは写真を見て欲しい。写真1(クリックすると拡大します。以下同じ)は室町時代の「かけ仏」と言われるもので、全長約12cm、名前どおり柱や壁に掛けて拝んだものと思われる。このかけ仏、関東ではなかなかお目にかかれない。なぜか関西の奈良に多いのだ。素材は薄い銅版で、うしろの皿状の背景(これを「鏡」といい、平安時代には鋳造の鏡そのものだった)と、本体の仏像は針金で結えてある。この仏像は打出し(金属の板を裏から叩いて立体的にする)という技法でできているが、鋳造(型をとって熔けた金属を流し込む技法)で作られた仏像もある。見ての通り表面は線香の煙でまっくろになっている。毎日この仏像の前で香が焚かれ、拝まれていたにちがいない。
一般的に仏像というと、寺にある大きな仏像を思い出すのではないだろうか。年配の方なら自宅に仏壇があり、その奥に仏像が置かれていて、毎日拝まされた経験があるかも知れない。私の推測では、仏壇というものが普及する以前に、一般の人が家で仏像を拝むようになったのは、このかけ仏からではないかと思う。仏壇のようにまわりに豪華な装飾があるわけでなく、もっとシンプルな形だったのであろう。私がかけ仏に関心を持ったのは、金属からでき、その製法は打出しという程でなく、薄い銅版を裏から押し出して作る押出仏が多いからだ。
写真2を見て欲しい。仏像の目はほとんどなく、鼻筋が後ろから打出されている。体の輪郭も顔の形もハサミで切り出されているだけだ。写真3も見て欲しい。仏が乗っている蓮の花の部分だが甘い刃タガネで表と裏から筋をつけている。タガネの種類も数本しか使っておらず、まことに稚拙と言えるのだが、全体としては実に可愛らしい。技術を超えた愛らしさがある故に、私がとても大切にしている一品でもある。
(写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます)
04/8/23 |