寄附した額は全部で1億円。
そのうち3000万円は公共事業などに使ってもらい、7000万でロダンを買った。私が38歳の時だった。その時の新聞が写真3だ。
「考える人」はサイズが2種あり、一体は小さくて高さ71.5cm、大きい方は186cmだ。祖母は大きい方を寄附したのだが、本年2013年、ロンドンのクリスティーズでオークションがありこの小さい方が16億円で落札された(写真4)。となると大きい方は、30億円はするのではないかと思う。36年間で約43倍だ。こんなに値上がりするものは他にないだろう。
ミュージアム・ピースと呼ばれる美術館に収まるべき作品はすごい値上がりをする。ゴッホの「ひまわり」を安田火災海上保険(現・損保保険ジャパン)の社長が58億円で落札したが、今では250億円は下らないと言われている。日本の重要文化財は約1万点あるが、たいてい1億円前後する。国宝級の刀だと数億円といわれている。もちろん売買は届出れば自由だ。ただ、海外に持ち出すことは禁じられている。京都の有名な祇園祭の一番矛(ほこ)を勤める長刀矛(なぎなたほこ)の頭上に輝く、長刀(なぎなた)を打った山城の刀鍛冶、三条宗近の刀は、東京上野の国立美術館に数本あって、私もガラスケースの片隅に飾られているのをみたことがあるが、当時で3億円位と言った人がいる。
さて、話しが脱線してしまったが、もし「考える人」が売り出されたら、世界中のかなりの美術館が買いに出るだろう。近代彫刻作品の目玉となるからだ。
現在世界に21体あり、生前の鋳造が9体、ロダンの死後フランス政府が12体まで鋳造することを認めている。「えっ、考える人は21体もあるの」と思ってしまうほどだ。しかし、フォンタナのキャンバスを切っただけの(実は裏に巧妙な仕掛けがあるのだが)作品ですら1000点以上もあるのだ(写真4)。
おばあちゃんが寄附した「考える人」は、名古屋市立博物館のロビーに今も展示されていて、脇に澤井千代子寄贈と書かれている(写真5)。日本国内では他に東京上野の西洋美術館の庭(庭だけなら入場自由)と、京都国立博物館、静岡県立美術館にもあり、特に静岡にはロダン館がある。
この考える人はあまりに皆が知っているので、ブラックジョークの対象にもなってきている。ガチャポンでも、プラケースの中に考えない人という人形がある。写真6は考えないと寝てしまうというタイトルだ。作者の名はロダンではなくダンロになっている。これもなかなかおもしろい。考えないで寝てしまう人、考えるということを考えない人等で、思わず笑ってしまう。そのパンフが写真7だ。